第12回メディア芸術祭@新国立美術館(1)

年間を通じて最も楽しみにしていて、かつ面白く、そしてワクワクする「文化庁メディア芸術祭」の季節がまたやってきた。
昨年の反省を踏まえて、今年は序盤に参戦。
結論から言えば、今年も十分すぎるほどに楽しめた展示会となった。
こんなに素晴らしい展示会がなんと入場料無料。今年度の開催期間は15日まで。皆様も是非どうぞ。
特に今日書く「つみきのいえ」には深い感動を受けましたので改めてメモしておこうと思う。
つみきのいえ/加藤久仁生


順路をたどっていくと必ず目にとまる場所で上映されているこの作品。目にした時には潜水服を来たおじいさんが静かにたたずんでいた。
そして、どうやらナレーション無し。
なんだこのアニメ?

というわけではじめから見ると...。
??年。
地球温暖化の影響による海面の上昇に伴って、家は上へ上へと増築されるようになっていた。もちろん老人の家もそうで、まわりを海にかこまれた家で釣りをしている。
ある日、ひょんなことから老人はお気に入りのパイプを落としてしまう。
あれこれ迷った挙句、パイプを探しに深い海にもぐっていく。
海の底に沈んだ部屋を順にたどっていくとそこには昔懐かしい部屋が現れ、老人の目の前に過去の思い出が広がっていく...。

ここで、さっき見た静かにたたずむ老人の場面が再来。
あぁ、なんてことだろう。無言の老人から発せられるメッセージは...。
何もしゃべらず、しずかにたたずんでいる老人を見ながら、気を緩めると涙が出てしまいそうなので、目と口に力を入れて観る。

パイプに刻まれた思い出と、ワイングラスと、壁いっぱいの家族の写真と...。 静かな思い出は、海の深く静かな場所にもあった。
そんな過去の積み重ね、過去の思い出を胸に秘めた老人の「生きる力」を、静かに、そして強く感じる感動作だった。

さて、このアニメーションを水面を「現在/時間」と見立て、水面下を「過去」、成長を「増築」の例えとして見てもおもしろいのではないか、と僕は思った。
否応無しに人間を追い立てる時間と闘いながら、人間は成長していかなければならない。
しかし、ひとつのステージを駆け上がると、過去にしずんでしまった過去を忘れがちだ。
でもそんな今の自分は過去の積み重ねである...と。過去を、思い出を大事にせよ、と。
さてさて、鑑賞者は、この無言の老人に何を見るだろう。見た人の感想もまた是非聞いてみたいものだと思った。

すでに世界中でいくつもの賞を受賞していたらしいこの作品。この存在を知らなかったことが悔やまれるけれど、観ることができてよかった。本当に。

第12回 文化庁メディア芸術祭 アニメーション部門 大賞受賞作品。
なんと!第81回 アカデミー賞 短編アニメーション部門 ノミネート作品(PDF)

つみきのいえ (pieces of love Vol.1) [DVD]

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